〇は不明箇所。
穴だらけだよ!
「仲尼言へるあり曰く、人遠慮なければ必ず近憂ありと、其言古しといへども、其理は猶新きが如し、松菊木戸公の如き盡、能く仲尼の言を軆せしものと謂ふべきか、文久元治の交、出石は広戸甚助なるものあり、為人任侠にして機矯あり、博打をなして発覚す、遁逃して京都に上り対馬藩士多田壮蔵に仕ふ、壮蔵人と為り慷慨交通、太だ廣く各藩の志士徒党〇て稠し、内に長門藩士桂小五郎なるものあり、特に甚助を愛す、一日来り過き謂て曰く、卿常に云ふ、家但馬出石にありと、余地図に就て之を検するに、其地京都に近くして幽邃ならんと、具さに通行の遠近山川の険易を問ふ、既々畢り笑て曰く、士藩主に仕ふ、アンイ遇合なきを保つを得ん、豫め潜匿の地とし置かざるべかざる、余若し譴を藩主に得ば、卿能く保護を肯ずるや否、甚助謂らく、是戯謔なりと、一笑を偽す、是より甚助を愛すること特に多く、時に秘書を托し知己に封送せしむるに、来る元治元年に至り、長兵關を犯す、一戦敗退兵士或は死し或は遁る、甚助既に小五郎の為めに秘書を封送す、幕吏の来り捕るを恐れ、潜匿して出でず、然るに人あり来り訪ふこと数回、甚助益潜む、一夜老婦あり来訪ふ、甚助謂らく他は幕吏にあらずと、密に出接す、小五郎情婦の母なり、曰く、主公切に君に遇ふことを欲す、請ふ妾と共に来り面せと、甚助曰、主公恙無きや否、答て曰く然りと、母に従て行く、導して五条磧中乞児の稿楼に時に炎暑極て烈なり、小五郎蟄して其中に在り、曰く、疇昔余卿に託するに保護を以てす、卿能く之を犯するや否、甚助曰く、賎夫固より之を犯す、然れとも男子耦行す、恐くは人をして之を疑はしめん、婦人を加るに如かず、請う暫く之を待てと、妹の京都の豪家に仕えしものを訪ひ倶に帰ることを勧む、妹曰く、阿兄平生妹を戒て曰、女子人に仕ふ忠誠ならざるべからずと、今や主家兵災に罹る、妹為めに股肱の力を尽さんと改す、如何して郷に還るべけんと、甚助理屈す、已むなく小五郎を導して京師を発す、潜行三日但馬久畑に達す、久畑は出石の藩境なり、関を設けて行人を誰何す、甚助藩吏の博打の事により巳れを拘するを畏れ、豫め小五郎に教ふるに、藩関士に答ふる要点を以てし、小五郎をして官道を進ましめ、自は間道を取り関門外に至り之を侍る、久して至らず、輿丁走り来りて曰く、関吏誰何実に厳峻を究む、請ふ帰りて之を救へ、甚助已むを得ず帰て関門に至る、藩士数名あり内々長岡市兵衛なるものあり、其居甚助の宅に近し、もと甚助を知る、口を開て輿中にあるものの何者たるを詰問す、甚助〇て曰く、他は二方郡居但の船主なり、大坂にありて発病す、時に賎夫将さに郷に帰んとす、船宿主人賎夫に托するに送還を以てす、疑ふに足らざるなりと、藩士之を信じ始て通行を許す、進て出石の〇村寺坂村に至り休憩し、甚助日没を以て出石に入り、角屋喜作を訪ひ、其間房を借ることを約し、直に寺坂村に帰り、小五郎を導して出石に入る、出石の地京師を距ること三十里、幕府会薩の倹吏時に来往、老険極て甚し、甚助其父才と惰らず、倹吏の来往するごとに、或は湯島に赴かしめ、或は養父に避けしめ、百方保護して、小五郎をして倹約発検を免れしめしのみならず、之をして京都の状況を探知することを得せしめ、翌年に至り送て山口に至る、当時の〇〇今迄存するもの極めて多し、既にして喜七先歿し、甚助直蔵亦跪き歿す、直蔵の子正蔵、拾蒐して冊となし、余に請ふに叙を以てす、晴天木戸公の事を挙るや、戦盼の必すべからざるを思ひ、豫め逃場を設け始て干戈を御し、一旦事敗るるや近畿に潜匿して添加の形勢を察す、遠慮ありて近憂を脱せんものといはざるべからず、甚助父子兄弟協心戳力して能く公を〇〇し、正蔵当時邊墨を集め其不朽を謀る、亦称せざるべからず、叙して之を養〇し置く
八十九歳 桜井勉」うっかり桂さんに作り笑いを返した為に、お尋ね者連れて郷里に戻るハメになった甚助氏が笑えた(笑)でも羨ましいっ!特に木戸さんを一日中独り占めしてるトコなんか!(言ってろ)
さてこの随筆ですが、どの程度信用してよいやら。
文末に「89歳 桜井勉」とあるんですけど、wikiによると桜井さんは1843年生・1931年歿、つまり数え89歳で亡くなられたので、この記事は最晩年の作と言って良いと思います。(本人が間違えた可能性もあるけど)
『但北紀行』等を見るかぎり、桜井氏はけっして大風呂敷を広げて見せたがるタイプではないと思うので、まぁそこそこの信憑性はある、と私は踏んでるんですが、やはり問題は話の出所元がイマイチ不明な点と、それから村松先生も指摘されているように、記憶力と時間経過の問題なんですよね。。。なにせ89歳という御歳!それに1稿と2稿を比べると、ところどころ食い違いちゃってるし。
とりあえず、「廣戸孝助伝」の方が「全体に生彩に富」んでいるという村松先生の言に従って、前者を初稿としておきました。
とりあえず、「廣戸孝助伝」の方が「全体に生彩に富」んでいるという村松先生の言に従って、前者を初稿としておきました。
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かゆ
自己紹介:
某WJ雑誌で掲載中の幕末パラレルギャグ漫画にて、黒髪長髪和服の人に転倒し、すっかり深みから抜けられなくなったオタク。そして深沼の底にて木戸さんに出会う。「醒めた炎」はバイブル。あの本で同時に村松氏のファンにもなりました。今は一刻も早く読了したい。
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